『いつも見馴れて居る公園の夜の騒擾も、「秘密」を持って居る私の眼には、
凡べてが新しかった。何処へ行っても、何を見ても、始めて接する物のように、
珍しく奇妙であった。』
『「秘密」の帷(とばり)を一枚隔てて眺める為めに、
恐らく平凡な現実が、夢のような不思議な色彩を施されるのであろう。』
『「ここの往来はあたしの秘密です。この秘密を知られれば
あたしはあなたに捨てられるかもしれません。」
「どうして私に捨てられるのだ。」
「そうなれば私はもう『夢の中の女』ではありません。
あなたは私を恋して居るよりも、夢の中の女を恋して居るのですもの。」』
『燦爛とした星の空を戴いて夢のような神秘な空気に蔽われながら、
赤い燈火を湛えて居る夜の趣とは全く異り、秋の日にかんかん照り付けられて乾涸びて居る貧相な家並を見ると、何だか一時にがっかりして興が覚めて了った。』
『凡べての謎は解かれて了った。わたしはそれきりその女を捨てた。』
谷崎潤一郎「秘密」より
この作品のボトルは、ガラス作家長嶋貴子さんのオリジナルボトル。
非常に透き通った、液体を思わせるように滑らかな吹きガラスです。
ボトルの底が擦りガラスにされていて、その照り返しが美しい。
切り絵を入れる前に写真を撮っておけばよかったな・・・
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